大判例

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横浜地方裁判所 昭和42年(ヨ)484号 判決

申請人

川越勝雄

右代理人

増本一彦

外五名

被申請人

旭硝子株式会社

右代表者

倉田元治

右代理人

大類武雄

外三名

主文

被申請人が申請人に対して昭和四二年五月二四日なした平均賃金の半日分の減給を内容とする懲戒処分の効力を仮りに停止する。

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

事実

(当事者の申立)

申請人代理人らは、主文第一項同旨ならびに「被申請人は仮りに申請人に対し昭和四二年五月二三日当時の労働条件を基準として従業員として処遇しなくてはならない。被申請人は申請人に対し金六三八円を支払え。」との判決を求め、

被申請人代理人らは、「本件申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」との判決を求めた。

(申請人の主張)

一 被申請人は、ガラス、炉材等の製造販売等を目的とし、肩書地に本店を置き、尼崎市に従業員一、二二九名を擁する尼崎工場を、横浜市に従業員一、八三九名を擁する鶴見工場を有する等、全国九カ所に工場を、五カ所に支店等を有し、従業員合計九、九八九名を擁する株式会社(以下、被申請人を会社という)であり、申請人は、昭和三七年一一月二六日会社従業員として採用され、尼崎工場に勤務してきたところ、昭和四一年一〇月一五日会社の配転命令を受け、右鶴見工場包装第二課フロート包装係として勤務し、会社従業員の構成する旭硝子労働組合(以下単に旭労という)の組織上は、組合員一、〇九七名を擁する尼崎支部より一、六一六名を擁する(以上の各人数はいずれも昭和四二年六月現在)鶴見支部に移籍したものであるところ、昭和四二年一月下旬、右尼崎支部機関紙「旭針」に別紙記載の「尼崎支部組合員の皆さまへ」なる文章を投稿し「旭針」同年二月二四日号に掲載された。しかるに、会社は、右投稿記事は職制を妄りに中傷誹謗するものとして、同年五月二五日、委員長、会社選定委員、支部選定委員各六名および幹事二名の構成する同工場の懲戒委員会の答申を得たうえ、鶴見工場長名で申請人に対し、その平均賃金の半日分金六三八円の減給処分に処する旨通告し、同年六月分の給与を金六三八円減額した。〈後略〉

理由

一争いのない事実

申請人主張一の事実および会社就業規則第一七八条が懲戒事由として第一九号に「会社の秩序をみだすおそれのある流言ひ語を行つたとき」、第二〇号に「みだりに会社の職制を中傷又は誹謗し、若しくは職制に対して反抗したとき」と、各定めていること。

二投稿記事の構成および目的

本件投稿記事を客観的に分析してその目的を考察するに、同記事は、第一の部分(「尼崎支部の皆さん……ご安心下さい」との記載)、第二の部分(「聞くところによりますと……私だけの問題ではないと思います」との記載)、第三の部分(「昨年二月に移行した……あらゆる妨害を加えてきました」との記載)、第四の部分(「これらの事実をみるとき……中傷であると思います」との記載)、第五の部分(「私たちは……ともに団結して闘いましよう」との記載)、第六の部分(「最後に……お礼申し上げます」との記載)の六つの部分により構成され、

第一の部分は、冒頭における旧所属尼崎支部組合員に対する挨拶を表明し、第二の部分では申請人に関する噂が中傷であることを強く主張したうえ、「こんなデマはどこから出たのでしようか。これらの中傷は私だけの問題ではないと思います」として、進んで第三の部分においてその背景の解明に入り、転勤に至る迄の尼崎工場および転勤後の鶴見工場における会社の労務政策を組合活動家に対する会社の圧迫とする観点から分析し、就中、鶴見工場において尼崎工場からの転勤者の忘年会を鶴見工場の職制がデマ、中傷を流し妨害した点を捉え、第四の部分において、かかる事実からの類推により申請人に関する噂が中傷であろうことを強調し、第五の部分においてかかる中傷にめげぬ組合員の団結を訴え、第六の部分において本件記事掲載への感謝を述べて記事を終えているから、客観的に考察する限り、同記事は全体として、尼崎工場における申請人についての噂を打消し団結を円滑ならしめるとともに、鶴見工場における転勤者の待遇その他労働条件を報告し、間接的にその改善への一助にせんとするにあつたというべきであり〈証拠〉を併せ勘案すれば、申請人もまたかかる意図をもつて投稿したことが一応認められる。

三投稿行為の組合行為性

労働組合法は、労働者がその労働条件について使用者と対等の地位において交渉するため自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うため自主的に組合を組織し団結することを擁護する等の目的に則し、使用者が右目的を阻害する行為をすることを防止するため不当労働行為制度を設けているのであるから、同法第七条にいう「組合の行為」のうちには、労働者の組織化と団結に不可欠な労働組合の機関紙発行行為および組合員の同紙上への投稿行為も当然含まれるというべきであり、かかる投稿行為は、その記事内容が直接または間接に組合員の団結権を擁護しその経済的地位の向上を計る目的からなされ、かつその内容が真実と合し若しくは確実と信ずべき事情が存し、殊更に使用者を誹謗する等特に不当な目的に出たものでない限り、たとい多少の誇張あるいは刺戟的表現が含まれていても、組合活動の特殊性に鑑み、未だ正当な組合活動の範囲というべく、かかる正当な投稿行為が職制に対する不信等会社の経営秩序に多少の影響を及ぼすことがあつても、使用者はこれを甘受すべきものといわねばならない。

しかるところ、〈証拠〉を綜合すると、旭労は会社従業員が直接組織する労働組合で、全国の工場、支店等の事業所毎に支部を擁するものであることが疏明されるから、旭労鶴見支部組合員である申請人がなした同尼崎支部機関紙への本件投稿は、全体としての組合内部における行為とみるべきであつて、組合活動が自己の所属する事業所、支部内にのみ限定される理由はない。

してみれば、本件投稿行為が尼崎支部における申請人の噂を否定し組合の団結を円滑ならしめるとともに、鶴見工場における待遇を報告しその改善を計らんとするにあつたことは前記のとおりであるから、その記事内容が真実若しくは確実と信ずべき事情が存しその表現に不当な点がない限り右投稿行為は正当な組合活動というべきである。

四投稿行為の正当性

(一)  記事(イ)部分について

1  被申請人は、同部分を他部分と対比考察すると、「鶴見工場職制が申請人が放火したとの噂を尼崎工場従業員間に流布した」と判読せざるを得ぬ旨主張するが、本件記事中にはその旨明言した部分はなく、他方、本件投稿の主目的は前記のとおりあくまでかかる噂が「中傷であること」を力説するにあり、その中傷の主体者を具体化して直接非難するでもなく、ただ鶴見工場の職制が尼崎からの転勤者の忘年会を中傷をもつて妨害した点を捉え、申請人に関する噂も中傷であると思われると強調しているにすぎないのであつて、中傷の主体者についてまで軽々に類推を及ぼすのは判読の行き過ぎである。「いたずらにデマをとばし、労働者の利益に反することを公然と行なう人たち」という表現も、忘年会の場合とは異り、それ自体は具体的に鶴見工場職制を指示していないのに加え、鶴見工場における噂の発生実態、尼崎工場との地理的距離から来る噂の伝播の実態組合員相互の関係等を考慮するとき、主体者を鶴見工場職制とする被申請人の判読は、現実的にも妥当でない。

2  次に、噂の存在についてみるに、〈証拠〉によれば、

本件投稿当時尼崎工場従業員の間には、「申請人が鶴見工場の寮に放火して喜んだため解雇された。」あるいは「発狂した。」との噂をはじめ申請人と同時に尼崎工場から鶴見工場に転勤した八一名中嘗て尼崎支部の役員であつた者らにつき、「窃盗を犯した。」「女性と行方不明になつた。」等の異常な噂が広く流布し、尼崎工場従業員の間に動揺を与えていたことが一応認められる。

3  以上の認定から、申請人に関する噂を鶴見工場職制が流布したとの解読を前提とする点において被申請人の主張は採るをえず、かつ右認定の事実関係の下においては、申請人がその噂を打消すためその趣旨に沿う記事を尼崎支部機関紙に投稿すること自体はその目的および方法において相当な行為というべく、右記事(イ)部分記載の事実は真実であり、虚偽と極めつけるべき点はなく、その表現にも咎むべきものはないといわざるをえない。

(二)  記事(ロ)部分について

1(1)  いわゆる「新制度による合理化」について

〈証拠〉によれば、

会社は昭和四一年二月二一日より編成人員ならびに基準外就業時間縮減に関する新労務管理制度を実施し、作業基準人員の再編成、年次有給休暇の割当て、交替制度の改訂、基準外労働時間の縮減、就業規律等の厳格化を計つた結果、たしかに超過勤務時間は一ケ月四〇時間平均から三〇時間平均に減少したが、反面、作業定員が削減され、年次有給休暇の半数が計画年休として固定化され、連続六日の夜勤が実施され、就業規律の面においても従来慣行的に行われていた種々の許容的取扱いが規制される等労働者にとり不利益な結果をもたらしたことは否定出来ないのであるが、これに対し、旭労尼崎支部執行部は、その実施前より旭労中央委員会において、かかる会社案を基準人員の大巾削減による労務費の節減を目的とする企業合理化案であるとして、二回にわたり撤回決議案を提出したが、いずれも否決されたことが一応認められる。

(2)  いわゆる「職制の教育」について

会社がその教育訓練要綱に基づき、従業員としての意識の昂揚および指導力の強化を目的として、課長、係長、主任、分任等の職制に対し各一泊二日の研修を施したことは被申請人の自認するところであり、〈証拠〉を綜合すると、尼崎工場においても昭和四一年春ごろその分任に対しその厚生施設で同趣旨の研修を実施したことが一応認められる。

(3)  いわゆる「御用組織の育成」について

〈証拠〉によれば、昭和四一年五月一〇日旭労尼崎支部の組合員中の有志の間に、労使関係を階級的対立と認識する立場から組合活動を推進せんとする同支部の現状をもつてこれを階級的闘争至上主義であると批判し、技術革新と企業間競争の激化した今日においては、組合は一方では生産性の向上に協力し、他方で合理的な利潤の分配を追求すべきである、と主張して、同支部の現状の変革を目指す四・一会なるグループが結成され、その会員中には自己の職制たる地位を利用してまで同会の拡大を計る者も少なくなく、職制を中心とし上司を招聘して講演会を開催する等の諸活動を活発に展開したため、同会の会員数は急激に増加し、これに伴ない、従来の執行部の方針を支持する組合員との間に熾烈な対立を惹起したことが一応認められる。

(4)  活動家の鶴見工場への集団転勤について

〈証拠〉によれば、会社は昭和四一年五月より鶴見工場においてフロート硝子の生産を開始したが、市場で予想以上の好評を博したため、同年七月急遽全生産計画を再検討し、磨板硝子の生産の大半を早急にフロート硝子の生産に切換えることとし、このため磨板硝子の主力工場である尼崎工場の磨板の生産を常昼作業のみに切換え、そこに生ずる九八名の剰員により、鶴見工場における約八〇名の欠員を補う方針を決定し、同年八月末旭労の了承をえたうえ、尼崎工場の全従業員より、年令四五才以下の健康上特段の支障のない者、磨板生産開始時に鶴見工場から転勤した者、京浜地区に縁故の深い者、独身者等を優先するなどの選考基準該当者として選び、同年一〇月中ごろ、申請人を含む八一名を鶴見工場に転勤せしめたのであるが、

旭労尼崎支部は、当初より右集団転勤計画をいわゆる合理化案であるとして消極的で、会社側より同計画の呈示を受けた直後の八月一二日の支部委員会では少数差で辛じて右計画を基本的に了承する旨決議したものの、九月一七日になされた転勤者の指名に対しては、尼崎支部の運営および同支部のなした選考基準に関する六項目の申入れに対する配慮の欠如等を不服として、会社に対し、異議を申立て再選考を申入れ、協議を重ねたが平行線を辿つたため、やむなく協議を打切つたのであるが、

事実、右八一名の転勤者中には尼崎支部執行委員一名、支部委員五〇名中申請人をはじめとする七名など同支部青年部を中心に従前の執行部を支持する相当数の職場活動家が含まれており、

さらに、同支部は、旭労中の他の各支部と異なり、数年来、労使関係を階級的対立と捉える立場から組合活動を推進せんとし、いわゆる労使協調路線を歩まんとする他支部との間に様々の問題点につき対立を重ねて来たことおよび鶴見工場には後記の如く労研同志会なる旭労鶴見支部有志組合員の組織する研修団体が存在し、同支部の活動を事実上支配しているときに、同工場における労働密度、就業規律は全般的にみて尼崎工場より高度かつ厳格であつたことが一応認められる。

2  されば、右記事(ロ)部分の記載は、相当程度に抽象的であるに過ぎないのみならず、右認定の諸事実関係の下においては、これを以つて、具体的根拠に欠ける架空の主張というをえず、使用者から独立し自主的であるべき組合活動としての観点からみても、「組合活動家に対するしめつけの総仕上げ」との見解を表明してならぬ理由はなく、かつその表現方法にも特に咎むべき点はないといわなければならぬのみならず、〈証拠〉、前記(4)認定の事実に弁論の全趣旨を綜合すると、右主張は申請人独自のものではなく集団転勤前から尼崎支部にも有力に存在した見解の表明であることが一応認められるのである。

(三)  記事(ハ)部分について

1  〈証拠〉によると、

鶴見工場には従前より旭労鶴見支部組合員の大半が組織する労研同志会なる研修団体が存在し、その幹部を多くの職制が占め、そのうちには共産党およびその支持者に対し反感を持つ者も少なくなかつたのであるが、右同志会は、前記集団転勤の前後その受入れ体制につき検討する等転勤者の加入を計るとともに転勤者中民主青年同盟もしくは共産党支持者と思われる者に対してはその動静を探りその結果を検討分析する等の活動をしていたこと、右同志会に対し反感を懐く右集団転勤者の一員である訴外堀江大陸に関し、①昭和四一年一二月ごろ、偶々同人の職場に労働組合等の設立した汐田病院の機関紙が在つたところ、これを同人が持込んだと誤解した同人の上司田中動力課長は、小林主任にこれを注意するよう指示したこと、②昭和四二年二月旭労鶴見支部が催した前記新労務管理制度施行一周年目の検討集会において、同人が同制度を批判したところ、翌日右小林主任がこれを咎めたこと、③同人が昼の休憩時他の職場に赴いたところ右動力課長は根拠なく同人を叱責したこと、④鶴見工場で稼働する同人の婚約者に対し、藤田労務課長は同人との結婚を思いとどまるよう申向け、さらにその結婚のための退職の挨拶に対し、「堀江は会社にとりよくない人間だ」と申向けるなどの嫌がらせを加えたこと、鶴見工場の附属寮には尼崎工場と異なり、門限が定められ、面会簿が設けられ面会人はその氏名、住所、目的を記入すべき旨定められるとともに、労務課員が舎監として宿泊し、結果的には寮生活上の私事が職場職制に速やかに伝達されていること、

以上の事実が一応認められる。

されば、右記事(ハ)部分の記載も相当程度抽象的であるのみならず、右認定の事実関係の下にあつては、これをもつて具体的根拠に欠ける架空の主張とは断じ難く、その表現方法も多少刺戟的ではあるものの、本来自主的になさるべき組合活動の性質に照らし未だ不当とはいえず、〈証拠〉によれば、同部分に類する表現記事は従前旭労尼崎支部機関紙あるいは鶴見支部機関紙上に多数存在していたが、会社はかかる記事を許容放任してきたことが一応認められるのである。

(四)  記事(ニ)部分について

1  〈証拠〉によれば尼崎工場から申請人らが集団転勤する以前、鶴見工場従業員の間には、右転勤者らは「アカ」だとの噂が流れていたが、右転勤後の昭和四一年一二月四日右転勤者らが忘年会を企画実行した際にも、同工場従業員との間には「右忘年会は共産党の者も加わつて催される」との噂が流れ、同年一二月はじめ同工場フロート包装係の主任、槙勝、石川守、内山崇らは同係に所属する転勤者らに対し「忘年会は共産党が主催するから行かぬ方が君のためだ。」等と申向けたり、あるいは「共産党とやるのは本当か。」等と問い合わせたため、右の噂はさらに拡大し、ために、転勤者らは困惑し、忘年会への出席を取りやめる者も出るに至つたが、右忘年会は予定通り転勤者らにより開催されたことが一応認められる。

2  されば、右記事(ニ)部分も、右1認定の事実関係の下においては、具体的根拠に欠ける主張あるいはみだりに職制を中傷、誹謗したものとは拠に断じ難く、たしかに「悪らつなデマ、中傷を職制がとばした」との表現は刺戟的であり、「あらゆる」妨害を加えたとの表現は多少誇張であるといわざるを得ないが、元来、従業員が忘年会を催すのは自由であつてこれを職制が妄りにに妨害することは許されず、かつ労働組合活動は本来使用者に対抗し自主的になさるべき性質を有することを考え併せれば、申請人のこの点に関する非難の語調が強まり、多少の誇張を含むことも無理からぬところであるから、これをもつて正当な組合活動の範囲を逸脱したと目することはできぬところ、さらに〈証拠〉を綜合すると、会社は従前この程度の刺戟的表現あるいは誇張を含む記事が組合機関紙上に掲載されることを許容放任してきたことが一応認められるのである。

(五)  右のとおりであるから、本件投稿記事の内容は大略真実若しくは無理からぬ見解の表明であつて、その表現方法もなお許容さるべき範囲内に留まるというべきで、従つて、申請人の本件投稿行為は正当な組合活動といわざるをえない。

五たしかに、〈証拠〉によれば、本件投稿により結果的には、鶴見工場に於いて転勤者と在来の従業員との間に心理的に蟠りが生じ、尼崎工場従業員の間には鶴見工場の職制に対する不信感や転勤への嫌悪の風潮が一時的に生じたことが一応認められるが、他方〈証拠〉によれば「旭針」の各号は、旭労鶴見支部に二五部宛配布されるにとどまるのみならず、同支部においては従前よりこれを組合員に対し回覧若しくは掲示せず、従つて、同支部組合員がこれを閲読する機会は稀であり、従つて右の蟠りは本件投稿行為から直接生じたものでなく、申請人の所属するフロート包装係の主任らが本件投稿記事を殊更に問題化した結果生じたものであると一応認められるから、この点は本件投稿行為に基づく直接の影響とは考えられないのであるが、証人山路稔の証言によれば、尼崎工場においては、「旭針」は組合員全部に一部宛配布されていることが一応認められるから、同工場従業員間の鶴見工場職制への不信感、転勤嫌悪の一時的風潮は本件投稿の直接の影響といえるのであり、かかる影響はたしかに「会社の秩序をみだすおそれ」を生ぜしめたといえるが、本件投稿行為が正当な組合活動である以上前記三のとおり、使用者たる被申請人はこれを甘受せねばならないのであつて、それにも拘らず会社が敢てした本件減給処分は、労働組合法第七条第一号所定の不当労働行為として無効というの外はない。

六仮処分の必要性

以上のとおり、本件投稿行為は正当な組合活動で、それを理由とする本件減給処分は不当労働行為であるにも拘らず、被申請人は本件減給処分が有効であることを前提とし、昭和四二年五月末申請人に対し数度に亘り始末書の提出を要求し、これに応じないときは再度の懲戒をなす旨示唆し、本申請申立後もかかる態度を維持しているとともに、鶴見工場社員就業規則第一七八条の定める懲戒事由第四五号には、「懲戒に処せられたにもかかわらず始末書を提出しない等、懲戒に服する意思が全く認められないとき」と定められているうえ同規則第一七九条第二号は「(前条)……第四五号に該当するときは懲戒解雇に処する。但し、情状により軽減することがある。」旨定めている(右の事実は〈証拠〉を綜合して一応みとめられる。)のであるから、本件減給処分の効力を停止する旨の仮処分の必要性は肯定すべきであるが、被申請人に申請人を昭和四二年五月二三日当時の労働条件で扱うことを命ずる仮処分はその実質が右仮処分と重複するため不必要と考えられ、更に右減給分金六三八円の支払いを命ずる仮処分もその額が僅少ゆえ不必要というべきである。

七結論

以上の次第で、本件仮処分は、右の限度で保証を立てさせないでこれを認容すべく、その余は失当として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(立岡安正 新田圭一 島内乗統)

尼崎支部組合員皆さまへ

鶴見支部 川越勝雄

尼崎支部組合員の皆さんいかがお暮しですか。私達転勤者も鶴見支部組合員となりましてから、はや四ヵ月になろうとしております。転勤者全員元気にと申し上げたいところですが、精神的・肉体的疲労は思つたよりひどく、尼崎での楽しかつた日々がなつかしくてたまりません。しかし、そのような困難にも屈せず、みんな頑張つておりますのでご安心下さい。

聞くところによりますると昨年の暮から今年の始めにかけて、私に対する事実無根のデマ、中傷が尼崎で流れているときき、まつたく身に覚えのないことなので憤慨にたえません。

多くの方から心配の便りや、尼崎へ帰られた人の話によりますと、私が寮に放火したとか、また、あきれたことには放火しておきながら燃えるのを喜んでいたとか、まつたく気違じみた話まであります。

私は声を大にして訴えます。これらはすべてデマ、中傷で、私は元気で鶴見工場で働いております。こんなデマがどこからなぜ出たんでしようか。これらの中傷は私だけの問題ではないと思います。(「聞くところによりますと」以下「思います」の間を(イ)部分という。なお、括孤内の記載はすべて当裁判所の記載である。以下同様。)

昨年二月に移行した、新制度による合理化に端を発し、職制の教育、御用組織の育成、それらと同時に組合活動家へのしめつけがジワリジワリと行なわれ、それ等の総仕上げとして多くの活動家が鶴見工場へ転勤させられたことすはでに御承知の通りです。(「昨年二月に移行した」以下「御承知の通りです」との間を(ロ)部分という。)

鶴見工場へ転勤後も会社は攻撃の手をゆるめることなく、日常の行動にまで目を光らせるとともに、(「鶴見工場へ転勤後も」以下「目を光らせるとともに」の間を(ハ)部分という。)昨年の暮れ、転勤者の忘年会には悪らつなデマ、中傷を職制がとばし、あらゆる妨害を加えてきました。(「昨年の暮」以下「加えてきました」の間を(ニ)部分という。)

これらの事実を見るとき、今回の私に対するデマはあきらかな中傷であると思います。

私たちは、このようにいたずらにデマをとばし、労働者の利益に反することを公然と行なう人たちを許すことはできません。

今後もこのようなデマや中傷が出るかと思いますが、(「今後も」以下「思いますが」の間を(ホ)部分という。)そんなものに負けることなく、旭労組合員の生活と権利を守るために、ともに団結して闘いましよう。

最後に、私ごとにもかかわりませず、貴重な旭針に載せていただき、関係者の方々及び尼崎の組合員の皆様に厚くお礼申し上げます。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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